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「人のために生きてみよう」飲食業界に30年間身を捧げた50代男性が、介護の道を選んだワケ

更新日:

初任者研修から踏み出した一歩

後藤 正典さん(53歳)

2021年1月 介護職員初任者研修 短期コース/立川校
2021年3月 介護老人保健施設 入社

記事の監修者:藤井寿和(介護福祉士)

介護スタッフの〝異次元のやさしさ〟に衝撃を受ける

夜の繁華街。介護業界とはかけ離れた世界のように思える場所に、今回取材をした後藤さんは27年間身を捧げてきた。そのうち15年間は役員として働き、年に休みは数えるほどで家族との時間も取れず、「お金を稼いでも幸せではなかった」と振り返る。とは言え、ずっと介護業界への転職を考えていたわけではなかった。

後藤さん 正直、介護の世界のことなんて、1ミリも考えたことはありませんでした。きつい、汚い、給料安いというような悪いイメージばかり。お年寄りにやさしく接することなんてなかったと思います。

そんな後藤さんだが、「いくつになっても母親は特別な存在なんです」と母親への想いは深かった。生まれつき糖尿病を患っていた母親が、3年程前にほとんど目が見えなくなって介護施設に入所すると、たまに面会に行くようになった。そこで衝撃を受ける。

後藤さん 施設では入所者はもっと社交辞令的に、機械的に扱われていると想像していたのに、介護スタッフは一人ひとりに細やかに接してくれていました。食事介助のときには口の周りについたものをとっさに素手で拭ってあげていたり、車椅子に乗っている時も様子を見てすぐに座り直させてくれたり……。私にとっては、異次元のやさしさに思えました。仕事だとはいえ「なぜ赤の他人にそこまでやさしくできるんだろう?」と、不思議でたまりませんでした。

スタッフたちが献身的に働いている姿を見たり、話したりしているうちに、自分とは全くかけ離れた異業種に興味がわいてきた。
一方、後藤さん自身は、ちょうど母親の体調が悪化してきた頃、関連会社の高級食パン屋の店長に異動になった。異例の異動だった。3店舗の店長を兼任し、早朝からのハードな長時間勤務に自身の身体も慮られ、「転職」が頭に浮かぶようになった。

後藤さん 母は83歳。今まで年1~2回しか会えなかったことを考えると、この先10年生きてくれても、あと20回ぐらいしか会えない。たった20回……。なのに、自分は何の知識もないから介助にも手が出せない。最後ぐらい自分の手で母を過ごしやすくしてあげたいなという気持ちが芽生えてきました。「技術を身につけて、いろいろやってあげたい! 」と 。

そこで後藤さんは介護のスクールで専門知識と技術を学ぼうと決意した。入学の時点では介護の仕事をするつもりはほとんどなく、「いざとなったら自分でも母親の面倒をみられるようになっておこう」と、母親への愛情が後藤さんを動かした。

「人のために生きてみよう」

資格を取ろうと思い立ち、スクールを探し始めた後藤さん。最終的に、数あるスクールの中からカイゴジョブアカデミーを選んだのは、「入口」の対応が良かったからだった。

後藤さん 自分はいろいろな人と付き合ってきたからわかるんです。その人が本気で親身になってくれているかどうかが。カイゴジョブアカデミーを選んだのは、最初の担当者がちゃんと向き合ってくれたからです。「入口」の対応がこんなに良かったら、入っても大丈夫だと思いました。

自転車でも通える立川校に入ってみると、25名ほどのクラスは自分よりずっと若い人ばかり。「大丈夫かな?」と不安だったのは束の間で、アットホームな雰囲気にすぐに打ち解けた。

後藤さん「嫌になったら辞めたらいい」と始めたのに、介護のことを学んでいると、母のことと照らし合わせてみて、「次のことをもっと知りたい!学びたい!」と思うようになりましたね。どんどん講習は進み、気が付いたら実習に入っていて、資格が取れてしまいました。

受講中盤までは資格取得だけでいいと思っていた後藤さんだったが、介護を学び、介護現場を見ているうちに気持ちに変化が現れた。

後藤さん 母のように困っている人は大勢いるのに、人がまったく足りてない介護現場。自分はまだまだ働けます。母からも「ちゃんとした仕事をしてくれ」とずっと言われていたので、「腹を括って、ちゃんとした生き方をしよう。困っている人のために生きてみよう」と思うようになり、それまでの仕事をやめて介護の仕事をしようと決心しました。

就職先の選択はいくつもあったが、最終的には条件面で選んだ。介護老人保健施設を選んだのは、母親が老健に入っていたので何となくずっと頭の中にあったこともある。

後藤さん 介護職をやりたいと思ったとはいえ、収入は大幅に下がってしまうので、正直、迷いました。でも、妻が「納得できるように、やりたいことをやってもいいんじゃない?」と言ってくれて。人生の終盤ぐらい、人のためになることをしていきたいなと思いました。収入が少なくなっても、家族との時間が取れるほうがずっと幸せじゃないでしょうか。

みんなあまりにも介護の世界を知らなさ過ぎる

腹は括ったが、不安がなかったわけではない。「オムツの交換なんてできるだろうか?」「認知症の人とコミュニケーションが取れるだろうか?」「人間関係、大丈夫だろうか?」。〝生き馬の目を抜く〟凄まじい世界で長年働いてきた後藤さんだが、介護は未知の世界だ。

後藤さん 現場では先輩がやさしく教えてくれました。こんなにもやさしいのは自分が入ったばかりだからだと思っていたら、2年目に入った今も皆さん変わらずやさしいんです。介護に携わっている人って、みんな心やさしい。

意外だったのは、想像とは違っていた働きやすい職場環境だった。現場の役割分担がしっかりしているから、急な残業もなく、休みはちゃんと取れる。趣味のキャンプやゴルフも予定通りに行けて、家族との時間がもてるようになった。収入も「少ない」と言われているほど「少なくなかった」。

後藤さん 夜勤手当も含めると、決して少ないとはいえないほど頂けています。収入や働きやすさは入職前の想像と全然違い、これまでの職場よりもずっと働きやすく幸せです。もっとこうした介護業界の実態が伝わればいいなと思います。

インタビューに答えてくれる後藤さんの柔和な笑顔からは、失礼ながら「夜の繁華街で働いていた」とは想像ができない。

後藤さん 自分はこう見えても、おじいちゃん、おばあちゃんに好かれているんですよ(笑)。帰るときに、「もう帰っちゃうの?」「また明日ね~」と言ってくれたりして、身体が疲れている時でも帰り道はいつもすがすがしい気持ち。今までそんな経験はなかったので、「必要とされているんだな」と思うと有難いですね。認知症の人でも目が見えない人でも、ちゃんと接していると、どんな状況でも「ありがとう」と言ってくれるんです。この道を選んで正解だったと思う日々です。人間の温かさが身に沁みてわかりますよ。


「やさしくなったね」とよく言われるそうだ。笑顔も多くなった。

後藤さん お年寄りにやさしくなりました。以前は見向きもしなかったのに、今ではバス停で杖を突いている人をみると、「ああ、これから病院に行くのかな?」なんて思いながら見られるようになりました。今までは自分を取り繕っていたけど、いまは自分をストレートに出せます!

後藤さんの中で強まった思いやりの心を見ると、介護に向いているような人が夜の飲食業界にも多く潜在しているのではないだろうかと思えてしまう。

後藤さん夜の飲食業界で働いている人は相手の心を読むのが仕事のひとつ。介護との違いはその対象が若者からお年寄りになるだけ。根性もあるのでできると思います。当時の後輩から「介護の仕事どうですか?」と聞かれることも多いですが、「腹ひとつだよ。括れるんだったらこっち来いよ」と声をかけています。

働き盛りの男性、とくに高収入の業界からの転職は、プライドが邪魔をしないだろうか?

後藤さん プライド? そんなものは、親にどれだけ迷惑をかけてきたかを考えれば、大したことではないですよ。ただ、家族の理解が得られるかどうかは大きいですけど。介護って、結局、自分の親や大切な人が施設でお世話にならないと、見て見ぬふりをするんです。少なくとも、自分の場合はそうでした。母親が施設で献身的な介護を受けていることを自分の目で見て感動したから入職したんです。

50代からの介護業界への転職。この先の後藤さんの展望は?

後藤さん うちの施設は60歳が定年で、非常勤で働けてもあと8年しか働けません。でも、まずは実務者研修の資格を取って、最終的には介護福祉士も目指したい! 年齢的には遅いけど、頑張りたいです。

人はいくつになっても新しいスタートを切って、これまでとは違う生き方をすることができる。だが、その道を切り拓くのは自分自身しかいない。幸い、介護の道はすでに歩きやすい道が用意されている。あとは後藤さんのように「腹を括る」決意だけかもしれない。

構成、執筆:谷口のりこ


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>>自己負担なしで介護職員初任者研修を取得できる!「特待生キャンペーン」についてもっと見る

>>介護の最初の資格といえばコレ!「介護職員初任者研修」についてもっと見る

この記事の監修者

藤井寿和


1978年 静岡県西伊豆生まれ。
18歳~24歳まで陸上自衛隊の救急隊員(衛生科)を経験し、 三宅島噴火に伴う災害派遣をきっかけに介護の仕事に転身。
医療法人で在宅医療に特化した介護を学び、介護施設の介護職員、生活相談員、管理者、事業部統括マネージャーに就任した後に、株式会社にて超都心型デイサービスの管理者を経験後、36歳で独立。
2015年に合同会社福祉クリエーションジャパンを設立。
介護福祉士現場コンサルタント、商品開発アドバイザー、講師業を経て、2017年、テレビ朝日の“スーパーJ チャンネル”にて自身への特集、密着取材が全国放映された経験から、介護業界の情報発信とスポットライトが当たる重要性に気づき、自主メディアの制作を志す。
介護専門誌のフリーペーパー発行人、編集長を歴任し、2021年9月にメディア事業へ注力する株式会社そーかいを設立し、代表取締役に就任、現在に至る。

・一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会 公認講師
・合同会社福祉クリエーションジャパン 代表
・株式会社そーかい 代表取締役
・ものがたりジャーナル 編集長
・NPO 16歳の仕事塾 社会人講師
・映画「ぬくもりの内側」プロモーションディレクター

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