きっかけは“履歴書の保有資格を埋めること”─飲食で培った「察知力」が活かして介護業界で働く30代女性のリアルに迫る
初任者研修から踏み出した一歩
「みんなの介護転職ストーリー」、今回の主役は神谷絵理奈さんです。10代の頃から介護が必要だったおばあちゃんにやさしい目を向けてきた神谷さん。10年以上の飲食経験を経て「資格」を意識し初任者研修を取得、介護の世界へ。「人との会話を楽しめる」「高齢者の話に興味がもてる」のは、利用者に好かれる恵まれた資質だと思います。
2022年5~8月 初任者研修コース/新宿校
2022年3月 有料老人ホーム
記事の監修者:藤井寿和(介護福祉士)
「福祉」を学んだが、着物が好きで和食系飲食業へ
高校は「福祉」の選択肢がある総合高等学校だった。神谷さんが福祉に興味をもったのは、糖尿病を患っていた祖母が身近にいたからだ。左足の壊死で義足を付けていたので介助をしていたが、「入浴介助などの専門知識があるともっと支えてあげられるのに!」と思い、高校では福祉コースを選択。デイサービスを見学したり、訪問介護に同行したりして、現在につながる介護の世界を垣間見る。しかしその第一印象は決して良いとは言えなかった。
神谷さんそのとき見学した訪問介護に衝撃を受けてしまいました。訪問時間が決まっているので、その時間内にケアプラン通りにサービスを提供することに徹していて、ほとんど利用者との会話がなかったのです。家族だと会話をしながら介助するのに、無言なんだ……と。
たまたま目撃した介護現場での違和感。それが影響したかどうかはわからないが、高校卒業後に就いた仕事は福祉ではなく、飲食業だった。その頃、神谷さんが興味もっていたのは福祉ではなくて「着物」だったのだ。
神谷さんもともと和風なものが好きで、祖母の家にあった着物に魅かれ、「着物を着ることができる仕事」がしたくて、和食ファミレスで働き始めました。その後は仲居など制服が着物の飲食店を転々として、途中で着物の販売もしたこともありました。でも、着物の販売はこちらの想いがストレートに伝わらず、押し売りになってしまうのがイヤですぐにやめてしまいました。結局、10年以上飲食でしたが、お客様が望んでいることや、その場の雰囲気を先読みする仕事はやっていて楽しかったです。言葉遣いや所作も学べました。
だが、30歳を超えてから、「何の資格もない」ということが気になり始めた。履歴書を書く時、資格の欄に書くことがなかったのだ。「この先ずっと飲食の世界でやっていけるかな」と漠然とした不安もあった。
神谷さん「自分でも取れる資格ってなんだろう?」と考えたとき、「介護」が浮かびました。ほかの資格と迷うことはなかったですね。おじいちゃん、おばあちゃんも好きですし。それから介護のことをいろいろ調べて、目標を「介護福祉士」に決めました。勉強は得意ではないですが頑張りたいと思えたんです。
30代のうちに資格取得して介護技術を高めたい
「介護の仕事をしたい!」と思っていた神谷さんは求人サイトに登録した。そこで選んだのが「看多機(かんたき)」(注:「看護小規模多機能型居宅介護」の略称。訪問看護、訪問介護、通い、泊りを利用者の状況に応じて提供する複合サービス施設)だった。
神谷さんその看多機を選んだのは、家から近く、オープンから1年未満の新しい施設だったからです。面接した担当者の人柄が良かったのも決め手でした。看多機は初めての人にとってはハードルが高そうだと言われますけど、デイサービス、訪問介護、入浴介助などトータルで学べたので良かったと思っています。看護師さんもいたし、ケアマネさんもいたのでケアプランの見方も教えてもらえました。
看多機では1年4か月の間、無資格で働いた。本来は勤務先が主催する初任者研修講座を受講する予定だったが、満員のため社員は後回しになってしまいチャンスがなかったためだ。そんな神谷さんは転職を考えるようになった。
神谷さん上司が変わって、職場の人間関係が悪くなったからです。私は人間関係が悪くなるとメンタルやられるタイプなので、職場を変えたいと思うようになりました。それだけでなく、現場で専門用語がわからなかったりどう声をかけようかわからなかったりと「基礎ができてないなぁ……」と感じる場面もしばしばあって。そんな経緯もあって「早く初任者研修を取りたい!」と思い立ちました。
昔、祖母の介護を見ていたときの何もできなかった無力感が消えずに残っていた。知識や技術の重要性を身にしみて感じる。
神谷さん介護する人を抱えたりするのにも、ボディメカニクスの技術がないと共倒れしてしまいます。技術面の成長のためには、まだ体力が落ちてない30代のうちに知識を身体に教え込むのがベストかなぁ……と。そういう思いもあっての転職です。
「初任者研修を無料で取れる制度のある施設で就職したい」。就職したものの、働きながらの受講は時間的にも金銭的にもなかなか難しいことを実感した神谷さんだからこその希望。それを叶えてくれる場所をネットで探していたら、カイゴジョブアカデミーが出てきた。特待生キャンペーンも初めて知った。
神谷さん看多機にいたときに派遣スタッフから、「技術を高めたかったら有料老人ホームか特養」「人数が少ない方がいいならグループホーム」と聞いていたので、そのあたりに候補を絞っていました。いまの有料老人ホームに決めたのは、家から近かったことと、「人間尊重」という施設の理念が自分の考えと一致していたからです。
始まった初任者研修は、コロナ禍だったこともあり、最初のころは他の受講生と話すことはあまりなかった。だが、実習が始まると、次第にみんなと話すようになった。
神谷さん私以外みんな介護未経験者。老健の運転手、デザイナー、看護助手、家族の介護をした人などいろいろでした。介護未経験だと、先生が話すことイメージが掴めない部分もあるようでしたが、私はすでに介護を経験しています。初任者研修で学んだことと現場で言われたことがつながって、「このことだったのか!」と腑に落ちて、仕事をしながら学べて良かったと思いました。点と点がつながった感じです。
看多機から有料老人ホームに転職して、その違いを感じることもあった。
神谷さん看多機の利用者は自宅との往復や外出もあるので気分転換もできますけど、有料老人ホームではコロナ禍で行事も制限され、施設の外にも出られないので、みなさんのお顔が少し暗くて……。コロナ前はもっとイベントがあって、外部との交流があったのでしょうけど。なので、いまは皆さんを笑顔にしようと自分が走り回っています。
人が好き! 人生の先輩方との会話は楽しい!
飲食の経験は、看多機でも有料老人ホームでも活かされている。
神谷さん施設では、スタッフの仕事は「時間に追われた作業」になっていることが多くて、意識しないと声がけが少なくなってしまいますが、私は飲食の接客経験から、気配り・目配りなどの「察知」は得意だと思っています。3人兄弟の一番上なので、昔から面倒見が良かったということもありますけどね。
施設での平均的なスケジュールは、起床した利用者に水分補給でジュースを与えてから、朝食介助。その後、口腔ケア、排泄を済ませたら、10時から体操。12時から昼食介助、14時からはレクリエーションなどのイベント、15時からおやつ、18時に夕飯、20時には就寝。そんな毎日の業務のなか、「利用者さんとの会話が楽しい」という神谷さん。
神谷さん利用者さんは人生の大先輩。昔の自慢話や思い出話をお話ししてくれたり、大切なことを教えていただいたりすることが多いですね。認知症の方であっても、「今この人はどんな世界にいるのかな」と探りながら会話するのは楽しいし、笑顔も可愛いし、こちらまで元気になれます。昔から周りに年上の人が多かったので、高齢者のお話を聴いたり、一緒に過ごしたりするのが好きです。
介護施設で高齢者の話に耳を傾けるのは大切なこと。根気よく話を聴いてあげる「傾聴力」も必要だが、神谷さんは「高齢者の話を聴くのが楽しい。勉強になる」と言う。「聴いてあげる」のではなく、「聴くのが楽しい」と思えるのは努力できることではなく、これまでに培われてきた感性や資質だ。そんな神谷さんにニコニコと介護してもらえる利用者は幸せだ。
神谷さんいつか「色彩検定」の資格を取りたいですね。施設でみんなでできることとして、絵を描いて会話を広げたり、お化粧を楽しんだり、色で楽しめることはたくさんあると思います。重度の人でも「耳から入る情報」「目から入る情報」で刺激を受ければ、進行を遅らせることはできると思います。介護業界は敬遠されることもありますけど、最後は自分も介護される側になるわけですから、そこを踏まえたら、おじいちゃん、おばあちゃんとの会話も結構楽しいですよ。介護はオススメです。何が嫌なのか私にはわからないです(笑)。
構成、執筆:谷口のりこ
「みんなの介護転職ストーリー」でご紹介している方々は、無資格・未経験から介護業界に挑戦したカイゴジョブアカデミーの卒業生です。皆さんが活用された「特待生キャンペーン」なら、自己負担なしで「介護職員初任者研修」の資格を取得でき、さらに介護職専門のキャリアアドバイザーによる就職先の紹介も受けられます。資格が1つあるだけで、給与や待遇がアップし、就職・転職時にも大変有利です。下記リンクからそれぞれ詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。
>>自己負担なしで介護職員初任者研修を取得できる!「特待生キャンペーン」についてもっと見る
>>介護の最初の資格といえばコレ!「介護職員初任者研修」についてもっと見る
この記事の監修者
藤井寿和(ふじい ひさかず)
1978年 静岡県西伊豆生まれ。
18歳~24歳まで陸上自衛隊の救急隊員(衛生科)を経験し、
三宅島噴火に伴う災害派遣をきっかけに介護の仕事に転身。
医療法人で在宅医療に特化した介護を学び、介護施設の介護職員、生活相談員、管理者、事業部統括マネージャーに就任した後に、株式会社にて超都心型デイサービスの管理者を経験後、36歳で独立。
2015年に合同会社福祉クリエーションジャパンを設立。
介護福祉士現場コンサルタント、商品開発アドバイザー、講師業を経て、2017年、テレビ朝日の“スーパーJ チャンネル”にて自身への特集、密着取材が全国放映された経験から、介護業界の情報発信とスポットライトが当たる重要性に気づき、自主メディアの制作を志す。
介護専門誌のフリーペーパー発行人、編集長を歴任し、2021年9月にメディア事業へ注力する株式会社そーかいを設立し、代表取締役に就任、現在に至る。
・一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会 公認講師
・合同会社福祉クリエーションジャパン 代表
・株式会社そーかい 代表取締役
・ものがたりジャーナル 編集長
・NPO 16歳の仕事塾 社会人講師
・映画「ぬくもりの内側」プロモーションディレクター